蕎麦道具


蕎麦道具は江戸から現代まで、長い歴史の中で合理性、

機能性が追求され、どれも実用本位に作られている。

道具は打つための道具と、

食べるための道具とに大別される。




打つための道具


  木鉢


 石臼で挽かれた粉は、まずこの木鉢に入れる。

 いまでは地域によって陶器製のものもあるが、

 かつてはそのほとんどが木製か漆で仕上げた

 塗りを使っていた。

 これでそばを練るとつやよく仕上がるとされていた。



 麺棒(打ち棒)


 そばを薄くのすっために使われる棒。

 樫の木で作られているものが多い。

 通常は2〜3本を1組とし、1本の両端を手で持って、

 前後に転がしながら麺をもう1本の棒に巻いていく。

 江戸では120cmの巻き棒1本と

 90cmの打ち棒2本の3本組みが使われていた。



 そば切り包丁


 そば切り包丁の刃幅は通常の3倍あるといわれている。

 そばは薄くのした後、4つ折りにして切るため、

 包丁の刃幅がないと、そばが途中で切れて

 短くなってしまうためである。

 切り方にはすり包丁と落とし包丁があり、

 細打ちは麺を包丁でするように切る「すり」、

 太打ちは包丁を麺に落とすように切る「落とし」と、

 そばの太さによって切り方は変わる。

 切り方は裏まできれいに刃が通り下に敷いた紙は

 切れていない事をそば切りの美徳とした。

 包丁はごくごくするどく研ぎ、そのあとに刃先を

 わずかに止めておくのがいいとされていたが、

 刃先がまな板に食い込むことなくリズミカルに

 そばを切ることができるという粋な江戸の解釈である。



 こま板


 包丁でそばを切るときにあてがう定規のような道具。

 杉などの薄板の一辺に定規が貼り付けてあるもので、

 黒檀を使ったものもある。黒檀を使うのは、

 目の疲れを防ぎ、手を保護するためのものだった。


 生舟


 木製のふたつき料理箱のことで、切り溜めとも呼ばれる。

 切った後のそばを入れて保管しておく。

 こくに8割、10割など純度の高いそばは

 切れやすいため、湿度を自然に調整する

 桐材が最適である。




食べるための道具


 蒸籠


 塗りの木製箱に竹のざるを敷いた、そばを盛る器。

 天保年間(1830〜1843)には、蕎麦屋が16文で

 そばを供するのが苦しいと御上にそばの値上げを

 願い出たが、二八の粋を曲げることは許さぬとして

 許可が下りず、そのかわりに蒸籠を上底にして

 苦しからずやと、今日の上げ底が生まれた

 といわれている。



 猪口


 冷そばを食べるのに欠かせないつゆを入れる

 器の猪口。

 これは豊臣秀吉の朝鮮遠征に従軍した鍋島直茂が、

 帰国の折りに連れてきた陶工に、有田の地で

 磁器釜を開かせたことから生まれたとされている。

 当初は調味料を入れたり、

 料理を盛る小鉢として作られていた。



 湯桶


 酒入れ、茶席の後段に白湯を出したところの

 湯次を転用したのがはじまり。

 元禄のころからそばを食べた後には

 蕎麦湯を飲むということが定説になったようである。



 薬味箱


 長方形、四角、重箱形など外を朱、内を黒の塗りで

 3駒に仕切られているのが定番の型。

 これは大根おろしやねぎ、わさびなどの

 薬味を入れるのに使われていた。