蕎麦屋のメニュー


お蕎麦屋さんの代表的なメニューと歴史をご紹介します。





 もり蕎麦


江戸の元禄の頃からぶっかけそばがはやるにつれて、

それと区別するため、汁につけ食べるそばを「もり」と

呼ぶようになった。

これはそばを高く盛りあげる形から生まれた呼び名。

「ざるそば」は、江戸中期、深川洲崎にあった「伊勢屋」で

そばを竹ざるに盛って出したのが始まり。

「ざるそば」に海苔がかけられるようになったのは

明治以後で、当時は専用の「ざる汁」を用いられていた。

いまでは「ざる汁」を別に作る店は少なくなっており、

海苔の有無だけが「もり」「ざる」の違いとなっている。


 かけそば


いま私たちが食べているようなそば(そば切り)は、

江戸時代初期に生まれ、

ともと汁につけて食べるものであった。

元禄(1688〜1704年)の頃からか、

これを面倒くさがる男たちがそばに汁をかけて

食べるようになった。

この手軽な食べ方を「ぶっかけそば(かけそば)」と

称して売り出したのが、江戸は新材木町にあった信濃屋。

人足たちが立ったまま食べられるように

冷やかけにして出し、寒い季節 になるとそばを温め、

熱い汁をかけて出した。

これなら器一つですむということで重宝がられ、

一般にも大いに広まった。


 きつねそば


薄甘く煮た油揚げをのせるそばが、

いわゆる「きつねそば」。

油揚げを種に使うそば、

江戸時代の文献の中で「信田(しのだ)」

という名で見られる。

信太山(大阪府和泉市)の森の女狐が

安倍保名と結婚して有名な陰明師、

安倍晴明を産んだという伝説が名称の由来。

「しのだ」は「篠田」「志乃田」とも書き、

現在も「きつね」異称として使われている。

ところで、大阪では「きつね」はうどんのメニューを指し、

油揚げがのっているそばのことを「たぬき」と呼んでいる。

また、地方によっては「稲荷そば」と呼ぶこともある。


 たぬきそば


天ぷらの揚げ玉を散らしたかけそばが、

東京でいう「たぬきそば」で、大正時代に生れた。

あげ玉とネギ以外に種らしいものが

入っていないことから「たねぬき」となり、

それが転じて「たぬき」になったとする説がある。

「はいから」とか「揚げ玉そば」と呼ぶ地方もある。


 天ぷらそば



そば店と天ぷら店の天ぷらの違いは、

そば店のものは衣が厚くて揚げ置きしている点。

そば店の天ぷらの衣が厚くなったのは、

汁を厚い衣によく染み込ませてほどよい味にするためと、

味つけのために少々煮込んでも

はがれる心配がないようにするため。

また揚げ置きは、油のにおいでそばの風味を

壊さないようにするためといわれている。

最近は揚げたてで衣も薄め、

煮込まないものが一般的になっている。

ちなみに、温かいかけそばに天ぷらをのせた

「天ぷらそば」は江戸時代生まれ、

もりそばと天ぷらを組み合わせた「天もり」は

昭和生まれのメニュー。


 月見そば


温かいそばにぽとりと落とした卵の黄身を

月に見たてたのが「月見そば」。

卵の白身は、月にかかる雲、

海苔が月の光に浮かぶ山、

生椎茸や三つ葉で松を表わしている。

詩情豊かな日本人特有の感性が

盛り込まれたメニュー。

先人たちの粋な遊び心が感じられる。


 鴨南蛮そば


「鴨南蛮そば」は、合鴨(マガモとアヒルの雑種)の

肉とネギを種にしているかけそばのこと。

江戸時代にネギのことを「南蛮」と呼んでいたことが、

そのままそば店のメニュー名で受け継がれている。

もともと南蛮とは、中国からみて野蛮な地域とされた

インドシナなど南海諸国のことをさす言葉で、

その影響からか、江戸時代の日本でも南洋の国々を

南蛮と呼び、また、その地を経由して来る外国人を

南蛮人と呼んでいた。

また、南蛮人がネギをよく食べたことから、

ネギを南蛮と呼ぶようになったともいわれていわれる。


 おかめそば


「おかめそば」は幕末の頃、江戸・下谷七軒町にあった

そば店「太田庵」が考案した種もの。

名前の由来は、具の並べ方がおかめの面を

連想させるところからきている。

基本的な具の並べ方は、

まず湯葉を蝶型に結んで丼の上部に置く。

これは、娘の髪をかたどるとする説と、

両眼に見立てるという説とがある。

鼻はマツタケの薄切りか、

三ツ葉を真ん中に置いてなぞらえる。

そしてかまぼこを2枚向かい合わせて並べ、

下に向かって開くように置いて、

おかめの頬のように下ぶくれの形にする。

いろいろな具が入っていて、

見た目に楽しいメニュー。


 花巻そば


「花巻」というのは、

もみ海苔を散らしたかけそばの雅称。

この名の由来は、材料の浅草海苔が「磯の花」に

例えられていたことからきている。

花巻そばが生まれたのは、

江戸・安永年間(1772〜81)の頃とされている。

上等の浅草海苔の磯の香りとそばの風味、

あぶった海苔が汁に渾然一体となって

溶け込んだ何ともいえない味。

海苔自体が黒光りした、

まさに“磯の花”という優美な趣。


 あんかけそば


かけそばをアレンジして片栗粉や葛粉で

トロミをつけた温かい「あんかけそば」は、

トロミのために食感がよく冷めにくいメニューなので、

寒い冬に食べると身体の芯から温まる。

あんかけそばを「よしの」と呼ぶこともあるが、

それは上等な葛粉で知られる吉野葛

(奈良県吉野産の葛粉)が由来で、

おもに関西方面で使われていた。

「あんかけそば」も江戸・幕末には登場していた。