醤油


日本人は醤油の匂いがすると言われるほど愛される醤油。

そばつゆはもちろん、煮物や焼き物など日本料理に

欠かせない醤油についてまとめました。




@歴史


 しょうゆのルーツは、古代中国に伝わる醤(ジャン)である。

 果実、野菜、海草などを塩漬けにして保存したことから

 始まったもので、「草醤(くさびしお)」、魚や肉を使った

 「魚醤(うおびしお)、肉醤(ししびしお)」穀物を

 原料とする「穀醤(こくびしお)」などがある。

 信州の禅僧・覚心(かくしん)が1254年(鎌倉時代)に

 中国から持ち帰った径山寺(きんざんじ)味噌の製法から、

 味噌づくりが開始。

 紀州・湯浅の村人にその製法を教えているうちに、

 この醤からしみだす汁がとてもおいしいことに気づき、

 今でいう「たまりしょうゆ」になったといわれています。

 江戸時代に入り、元禄から享保時代(1688〜1736年)

 になると、江戸っ子の好みにあった濃い味のしょうゆが

 つくられはじめた。関西からくる「下りしょうゆ」に対して、

 「地回りしょうゆ」といい、今の「こいくちしょうゆ」に

 あたるものである。



A醤油の風味


■旨味


 大豆と小麦に含まれるたんぱく質が、麹菌の酵素で

 分解され、約20種類のアミノ酸に変化して生まれる。

 中でもグルタミン酸は、しょうゆの旨味の主役である。


■甘味


 小麦のでんぷんが醸造中にブドウ糖に変化して生まれる。

 全体の味をやわらかくし、丸みをもたせる働きがある。

 口に含むと、舌の先にこの甘味をほんのり感じます。


■酸味


 乳酸菌の働きによってブドウ糖が変化して生まれる。

 こうして造られた有機酸類は、塩味をやわらげ、

 味をひきしめる働きをしている。



■塩味


 こいくちしょうゆで16〜17%。海水の約5〜6倍にもあたる。

 それほど塩辛く感じないのは、アミノ酸や乳酸などの

 成分が塩味をやわらげ、深みのある味わいを作りだして

 いるからである。



■苦味


 数種類含まれていて、苦味を直接感じることは無いが、

 「コク」を与えるかくし味的存在として、

 しょうゆの味をすっきりとひきしめている。


■香り


 麹菌、酵母、乳酸菌などの微生物によって生まれた

 300種類以上の芳香成分は、魚介類や肉類の生臭さを

 消すスパイスの働きを持ち、加熱すると香ばしさを生み出す。


B調理効果


■消臭効果


 アミノ酸の一種メチオニンが変化したメチオノールという

 物質の働きによる、消臭効果である。


■加熱効果


 アミノ酸と砂糖やミリンなどの糖分が加熱により

 アミノカルボニル反応を起こし、メラノイジンという

 芳香物質ができるためである。アミノカルボニル反応は、

 美しい照りを出す働きもする。



■静菌効果


 適度な塩分やアルコール、有機酸などが含まれているため、

 大腸菌などの増殖を抑制、死滅させる効果がある。



■対比効果


 一方の味が強く、他方の味がごくわずかな場合、

 主体の味がより強く感じられるのが対比効果。


■抑制効果


 しょうゆの中に含まれる有機酸類に、

 塩味をやわらげる力がある。


■相乗効果

 しょうゆの中のグルタミン酸と、かつお節の中の

 イノシン酸が働きあうと、深い旨味がつくりだされます。


C種類


 濃口醤油


 全国のしょうゆ消費量の約82%を占める、

 最も一般的なしょうゆ。塩味のほかに、深い旨味、

 まろやかな甘味、さわやかな酸味、味をひきしめる苦味を

 合わせ持っている。調理用、卓上用のどちらにも

 幅広く使える万能調味料。


 淡口醤油


 関西で生まれた色の淡いしょうゆで、全生産量の約15%

 を占めている。発酵と熟成をゆるやかにさせるため、

 食塩をこいくちより約1割多く使用。

 素材の持ち味を生かすために、色や香りを抑えたしょうゆ。

 炊きあわせやふくめ煮など、素材の色や風味を生かして

 仕上げる調理に使われる。



 溜まり醤油


 主に中部地方で作られるしょうゆ。

 とろみと濃厚な旨味、独特な香りが特徴。

 古くから「刺身たまり」と呼ばれるように、

 寿司、刺身などの卓上用に使われるほか、

 加熱するときれいな赤身が出るため、

 照り焼きなどの調理用や、佃煮、せんべいなどの

 加工用にも使われる。



 再仕込み醤油


 山口県を中心に山陰から九州地方にかけての特産しょうゆ。

 他のしょうゆは麹を食塩水で仕込むのに対し

 しょうゆで仕込むため、「さいしこみ」と呼ばれている。

 色、味、香りともに濃厚で、別名「甘露しょうゆ」とも言われ、

 刺身、寿司、冷奴など、おもに卓上でのつけ・かけ用に

 使われている。



 白醤油


 愛知県碧南地方で生まれ、うすくちよりもさらに淡い

 琥珀色のしょうゆ。味は淡泊ながら甘味が強く、

 独特の香りがあります。色の薄さと香りを生かした吸い物や、

 茶わん蒸しなどの料理のほか、せんべい、漬物などにも

 使用される。



D原料


 大豆・脱脂加工大豆


 大豆の主成分であるたんぱく質が、麹菌のたんぱく質

 分解酵素(プロテアーゼ)により分解され、

 しょうゆの旨味成分であるアミノ酸を生む。

 脱脂加工大豆とは、しょうゆ製造上必要なたんぱく質を残し、

 脂肪分をあらかじめ取り除いたもの。



 小麦


 小麦の主成分であるでんぷんが麹菌の酵素

 (アミラーゼ)の働きでブドウ糖に変わり、

 甘味とコクを生み出す。さらにブドウ糖が乳酸菌により

 乳酸や酢酸などの有機酸に変化し、塩辛さをやわらげ、

 しょうゆの味をひきしめる。ブドウ糖の一部は酵母の働きで

 アルコールに変わり、香りを高める働きをする。


 塩


 食塩は仕込みの段階で水に溶かして加えられ、

 塩味のもとになる。また、腐敗菌などの有害菌を抑え、

 麹菌・乳酸菌・酵母といった有用な微生物をゆるやかに

 働かせるために重要な役割を担っている。


E製造方法


■濃口醤油(本醸造方式)


 蒸した大豆(脱脂加工大豆)と炒った小麦を

 ほぼ等量混合し、種麹を加えて「麹」を造る。

 これを食塩水と一緒にタンクに仕込んで「諸味」を造り、

 撹拌(かくはん)を重ねながら約6〜8カ月ねかせる。

 麹菌や酵母、乳酸菌などが働いて分解・発酵が進み、

 さらに熟成されてしょうゆ特有の色・味・香りが生まれる。


■淡口醤油


 基本的な製法はこいくちしょうゆと同じだが、

 製品の色を淡くするために、食塩水の量を多くしたり、

 諸味の温度をこいくちより低くしたりする。


■溜まり醤油


 その主原料は大豆で、小麦はごくわずか。

 原料を蒸し、「味噌玉麹」を造って食塩水で仕込み、

 底にたまった液を汲みかけながら

 ほぼ1年間発酵・熟成させる。


■再仕込み醤油


 一般にしょうゆの仕込みには食塩水を使うが、

 食塩水の代わりに生しょうゆを用いる。


■白醤油


 愛知県碧南地方で生まれたしろしょうゆ。

 その主原料は小麦で、ごくわずかに使われる大豆は

 炒ったあと皮をむき、小麦も脱皮・精白して使う。

 約3カ月間、なるべく低温で保つことにより、

 美しい琥珀色のしょうゆが生まれる。


F規格


 しょうゆは日本農林規格(JAS)で決められ、

 特級」「上級」「標準」の3等級の格付けがある。

 各級別の規格は、「色度」「全窒素分」

 「無塩可溶性固形分」「アルコール分」の4項目と

 性状によって規定されている。

■色度


 色度は、「日本醤油検査協会」が定めたしょうゆ標準色と

 比色して測定する。

 標準色の番号は大きくなるほど色は淡くなる。


■全窒素分


 しょうゆのうま味の指標で、しょうゆに含まれている

 各種アミノ酸やペプチドに必ず含まれている

 窒素の総量を測定している。


■無塩可容性固形分


 しょうゆ中に溶けている塩以外の物質ということで、

 しょうゆから食塩と水を除いたもの。

 即ちしょうゆのエキス分。

 主としてしょうゆの濃度を表す。


■アルコール分


 アルコール分は、香りの成分で、同時に発酵が

 十分に行われているかどうかの目安になる。