鰹節


蕎麦つゆに使われる唯一の出汁材料である鰹節。

旨味であるイノシン酸は醤油のグルタミン酸との

相乗効果で美味しくなる科学的観点からも、

最適な組み合わせであることが分かる。

蕎麦つゆに欠かせない鰹節の歴史や製法をまとめました。




@名前の由来


 かつおの名前の由来は、諸説ある。

 ・干すと固くなる魚である事から堅魚(かたうお)

  と呼ばれ、なまった

 ・かつおを干す事からかつお干しが変化した

 ・かつおを煙でいぶす事からかつおイブシが変化した

 ・かつおを干したものを数える単位として節を使用し、

  一節、二節と数えていたことが転じた



A縁起物


 贈物として利用されている由来は、

 縁起かつぎとしての利用として「勝男武士」の

 字を当てはめて、北条氏綱氏が戦勝の報償品として

 常にかつお節を用いた事や、

 雄節・雌節の組み合わせが、夫婦一対を現し、

 亀節(鶴亀)となる事から、めでたいものとして

 かつお節を引き出物として利用されている。



B歴史


 かつお節の最も古い記述は、「古事記(712年)」に

 「堅魚」(かたうお)の表記がある。

 当時のかつお節は生身をそのまま干した「堅魚」や

 煮てから干した「煮堅魚」といったものであった。

 現在のかつお節(荒節)の原型が完成したのは、

 1674年(延宝二年)、紀州(今の和歌山県)印南浦に

 住んでいた甚太郎という漁師が、

 嵐のため土佐(今の高知県)の宇佐浦に漂着し、

 そこで、かつおをナラやカシなどの広葉樹の

 薪の煙でいぶす「焙乾法」を発明したとされている。

 「枯れ節」の起源については、

 はっきりとした記録は残っていない。

 「荒節」を箱に詰めて輸送・保管している途中で、

 自然にカビが発生し、このカビが風味を高めたり

 保存性を高めたりすることに気付き、その後は、

 人為的にカビ付けを行い「枯れ節」を作る製法が

 確立していったのではないかと考えられる。


C旨味成分


 かつお節のうま味の主役はイノシン酸で、

 これに遊離アミノ酸が加わる相乗効果と、

 わき役として燻乾の過程で付与された香気成分や

 燻煙成分、カビ付けによる独特の香気や有機酸、

 脂肪酸等が微妙な引き立て役となっており、

 かつお節独特の豊かな風味となっている。

 イノシン酸はかつお節の乾物中0.3〜0.8%含まれており、

 かつお節のうま味の本体であることが明らかにされている。

 遊離アミノ酸はかつお節の乾物中2.5〜3.5%

 含まれています。これらの遊離アミノ酸は、

 イノシン酸のうま味の発現に対して補助的に働き

 そのうま味をより強力なものへと感じさせることが

 認められている。


D種類



  荒節


 焙乾とあん蒸を繰り返す間欠焙乾を繰り返す事によって、

 水分が20%程度にまで乾燥された節の事を荒節という。

 表面にタール分が付着し、黒っぽく見える事から

 鬼節とも呼ばれます。

 荒節を薄く削った物が花かつおであり、

 くん臭の効いた、力強い風味が特徴である。



 裸節


 節の表面のタール層を、削り包丁もしくは

 グラインダー等で削りとったもの。

 枯れ節を作る為の準備段階の節で、

 荒節の表面の抗菌性を持つタール分を

 除去することによって、カビを生えやすくする為に、

 加工される。荒節の表面のタール層が無くなり、

 節の色が赤っぽく見えるため赤剥き(あかむき)、

 赤裸(あかはだか)と呼ばれることもある。



枯節


 裸節にかび付け、日乾を繰り返し行った節を枯節と呼ぶ。

 カビ付けによって上品でまろやかな風味が付与され、

 水分は15%程度まで低下する。

 三番カビをつけたものを枯節、

 四番カビ以上つけたものを本枯節と呼ぶ



 雄節


 かつおの魚体を3枚に下ろし、更に半身を二分割

 (5枚下ろし)にしたものを本節という。

 特に、背側の部分を燻乾した節の事を

 雄節と言います。節の断面は三角形で、

 雌節より脂肪分が少ない傾向がある。


 雌節


 かつおの魚体を3枚に下ろし、更に半身を二分割

 (5枚下ろし)にしたものの腹側の部分を燻乾した節。

 雄節と比較してかつおの腹側の縞模様があり、

 内臓があった部分に凹凸がある。

 雄節より脂肪分が多い傾向がある。



 亀節


 魚体が小さいため、3枚に下ろされ半身の状態のまま

 節に加工されたもの。形状が動物の亀の甲羅に

 似ている所から亀節と呼ばれている。

 雄節と雌節がひとつになった状態を亀節と呼ぶ。

 かつお節は夫婦がそろって亀になる事から、

 縁起物として利用される所以といわれている。



E製造方法


 生切り/身割り


 解凍したカツオを、頭を落として3枚に卸す。


 3枚に卸したものを加工すると「亀節」になる。

 それに対して、「本節」用の大きなカツオは、

 さらに半身を血合いの部分で背側と腹側に切り分ける。

 これを、合断ちという。背側を背節もしくは雄節、

 腹側を腹節もしくは雌節と呼ぶ。



 籠立て


 身割りした節を、煮熟するために「煮籠」と呼ぶ

 金属製の籠に並べる。

 ねじれていたり曲がっていたりしたまま煮熟すると、

 形の悪いものが出来上がってしまう。

 並べ方は、亀節では皮付き面を、

 本節では背節と腹節に切り分けた切断面

 (合断ち面)を下にする。


 煮熟


 75〜85℃の湯をたたえた煮釜の中で煮熟し、

 98℃まで上げる。

 100℃にしないのは、沸点まで温度を上げると、

 釜底より大きな泡が立ち上がり、

 節が動揺して煮くずれがおきやすくなるからである。

 煮熟する時間は、亀節で45〜60分

 本節で60〜90分である。

 煮熟の目的は熱凝固性のタンパク質を完全に凝固させ、

 自己消化酵素を失活させるためである。

 これが不充分だと、焙乾したときに肉のしまりが悪く、

 味も低下する。

 タンパク質が十分に凝固されると、

 筋肉中の水分が拡散しやすくなり、

 その後のイノシン酸は分解されずに残るので、

 旨味に富んだ上等な鰹節が出来上がる。



放冷


 風通しの良い涼しいところに1時間ほど置き、

 身を引き締める。出来上がった節が、なまり節である。

 含有水分が多く、鰹節と違い保存性は良くない。


 骨抜き


 水を張った「骨抜きタライ」と呼ぶ水槽の中で、

 骨・皮・ウロコ・皮下脂肪・汚れなどを取り除く(水骨法)。

 鹿児島地方では、生切り後に、水に浸けずに

 手のひらの上で骨・皮を除く(陸骨法)。

 節についている皮は、背節は頭に近いほうを半分

 から3分の2、腹節および亀節は同3分の1をはぎ取る。

 皮を全部はぎ取らないで残すのは、

 次の工程の焙乾時に身くずれを起こさないためと、

 皮にできるシワの状態が「枯れ」具合、

 つまり乾き具合を判断にする目安となる。


 焙乾


 熱気流を主体に、合わせて煙を利用して乾燥する。

 煙の中にはたくさんの有機化合物(アルデヒド系

 ・フェノール系・酸類・塩基等)が含まれており、

 これらの有機化合物が、素材の周囲を包み込んで、

 外部からの雑菌の進入を妨げて腐敗から守ったり、

 素材の内奥まで浸透し、殺菌効果をもたらす働きがある。

 一番火は、表面の水分を除き、雑菌を殺してネト

 (表面にできる雑菌の集落)の発生を防ぐのが目的。

 85〜90℃で約1時間行う。

 焙乾とは燻すことで、何回も繰り返し行う。


 修繕


 修繕は焙乾が終わった翌日に行い、身が欠けたり、

 傷がついたまま次の工程に進むと、

 欠損した部分から身割れがおきたり、

 欠損部分が拡大する恐れがあるので、

 それを防ぐために行う。

 中落ちや頭について残った肉を、煮熟時に一緒に

 煮ておいた煮熟肉と生肉を、2対1の比率で混ぜ合わせ、

 すり鉢でよくすりつぶしペースト状にする。

 竹ベラで身割れや欠損部分にすり身を埋め込んで、

 その上から水で湿らせた和紙を張っておく。



間歇焙乾


 亀節で六〜八番火・本節で十〜十五番火行われます。

 一番火より少し低めの温度で1時間ほど行う。

 三番・四番と進むにつれて、徐々に温度を低くし、

 反対に時間を長くしていきます。

 1つの焙乾が終わり、次の焙乾に移る間に

 「あん蒸(アンジョウ)」を行う。

 あん蒸とは、節の並んだセイロに木のふたをし、

 寝かせる作業のことである。

 鰹節をつくるには、内側にある水分を表面のほうに

 拡散させ、そこから外に出す必要があり、

 あん蒸なしにいっきに焙乾すると、

 節の表面だけ堅くなり、水分が中に封じ込められて

 不均質な節に仕上がってしまう。

 焙乾の終わった節の表面は燻煙中の煙成分(タール)に

 覆われて黒くなり、表面がザラザラとしていることから

 「荒節」あるいは「鬼節」と呼ばれる。


削り


 荒節を半日〜1日よく日にあててから、

 さらに樽か箱に詰めて2〜3日おく。

 そして表面が湿り気をおびてきたら、

 「削り」の作業に入る。

 何回も焙乾を繰り返したために、

 表面に多量のタール分が付着し、

 また内部より脂肪分がにじみ出ている。

 このタールと脂肪を削り取るのが「削り」で、

 合わせて節の表面の凹凸や屈曲も削ることによって

 形が整えられる。

 削りの工程は、節をきれいな形に整えると伴に、

 鰹節優良カビがつきやすくするのと、

 タール分に含まれる強い焙乾香を和らげて、

 鰹節らしい風味とする役目がある。

 削り上げられた節は、「裸節(ハダカブシ)」と呼ばれ、

 赤褐色を呈していますので、「赤むき」「赤はぎ」

 とも呼ばれる。



日乾/カビつけ


 削りの終わった裸節を1〜2日間、

 戸外で日に当てる工程を「日乾」といい、

 その後、樽か木箱に節を詰め、しっかりとふたをする。

 カビが発生しやすいように温度25〜26℃

 ・湿度84〜85%に調整されたムロ(室)で、

 夏場で10日間程で節の表面がカビで覆われる。

 このカビのことを「一番カビ」といい、

 戸外に広げたムシロ等の上に並べて2日間ほど日に干す。

 日乾された節は、ブラシを使って一本一本丁寧に

 カビを払い落とし、風通しのよい日陰に並べ放冷する。

 「二番カビ」は一番カビ同様にムロに入れ、

 15日前後でカビに覆われる。

 日乾→カビ落とし→放冷の後、再びカビ室に戻す。

 新たについたカビを「三番カビ」という。

 三番カビ以降は、カビ室に入れることはせず、

 長く伸びたカビの菌糸等を落とした後は外気中に置いて、

 カビの生長を待ち、日乾→カビ落とし→放冷を行い、

 四・五・六番とカビつけ作業を繰り返す。

 通常は四番、長くて六番までカビをつける。

 一番カビから生える鰹節優良カビは、

 最後まで同じユーロティウム属だが、

 一番カビでは青っぽいものが、

 成熟するに従って赤茶色に変わっていく。

 カビがつくまでの日数は、おおよそ一番ごとに

 1週間ずつ長くなります。

 三番カビをつけたものを「枯節」

 ・四番カビ以上つけたものを「本枯節」と呼ぶ。